1 映画と違った現実の世界
今日は『サウンド・オブ・ミュージック』について。『サウンド・オブ・ミュージック』といえばアカデミー賞を受賞した映画で、ごらんになられた方もいらっしゃるかと。この映画の主人公であるマリアと、夫のトラップとその子供たちは、オーストリアの豊かな自然の中で歌を楽しみ、楽しく平和にくらしていたが、ナチスが現れ、一家は亡命をしてしまうというストーリーです。あのオーストリアの美しい自然、トラップ一家の温かい家族愛に僕も感動をしました

しかし、この映画の世界観と、当時のオーストリアの現実は異なっていたそうです。
第一次世界大戦後のオーストリアはゴタゴタしていて経済力もダウンしてきました。失業率も20パーセントを越え、ウヨクっぽい政治家が力をつけてきたのです。議会制(※1)は停止、左翼政党も解党、労働組合も解散させられたのです。なんと!オーストリアにもナチスが誕生し、非合法(※2)ながら勢力をのばしていたのです。オーストリア・ナチは反乱をおこし首相を暗殺してしまったようです・・・

そしてヒトラー率いるナチスが本格的にオーストリアに進出しました。その時、ほとんどのオーストリア国民は抵抗するどころか、ヒトラーを歓迎したのです。そんなことはこの映画には一切出てきません。それどころか、ナチスの野蛮さばかりが映画では強調されています。僕がオーストリアがナチスを支持したを知ったのはこの映画ではなく、NHKのドキュメンタリー番組の『映像の世紀』でした。
また、意外なことですが『サウンド・オブ・ミュージック』は長らくオーストリア国内で上映されなかったそうです。もっとも2011年になってルツブルグという町にて上映されたようですが。若いオーストリア人は、この『サウンド・オブ・ミュージック』を知らず、年配の人はこの映画を不快がるそうです。年配の方がこの映画を良く思わない理由の一つは、この映画が戦前のオーストリアを擁護する映画とみなされているからでしょう。
それは、映画の中のパーティ―でトラップが着た服装の首につけた徽章は古いファシズムを表す徽章なのです。そんなファシズムの象徴のようなものを身に着けるなんてとんでもないというのが古いオーストリア人の言い分なのでしょう。日本に例えれば「七生報国(しちしょうほうこく)」と書かれたハチマキをしめた俳優がひんしゅくを買うようなものです。
それに、『サウンド・オブ・ミュージック』がトラップがいい人のようにえがかれています。しかし、オーストリアの年配の人たちからみると、ファシストなトラップを美化しているようにしか見えないのです。日本に例えれば東条英機を美化する映画のような感覚なのでしょう。
この映画はアメリカで作られたものであり、オーストリアの映画ではありません。従いましてオーストリアのプロパガンダ映画ではありません。が、この映画は結果的に「オーストリアはナチスに脅かされたかわいそうな国」だと世界に広めてしまったのです。
戦後、オーストリアは永世中立国になりましたが、同時に「自分達はナチスの犠牲者で、今は世界平和のために貢献している

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