「渡る世間は鬼はなし」って言葉があります。世の中には鬼のように無情な人ばかりでなく、親切で人情に厚い人もいるということのたとえです。実際は鬼の方が圧倒的に多くて、親切で情に厚い人を探すのは難しい気がするのですがw、それはともかく、「鬼」っていうと悪いイメージがあります。また、鬼というと、虎のパンツで筋骨隆々で、おっかない顔のイメージがあります。いかにも強そうな感じですね。「桃太郎」とか「一寸法師」とかの昔話でも、鬼はラスボスのイメージですね。仕事の鬼という言葉がありますが、これはすごい仕事ができる人のことを言いますね。また、最近の若者よく「鬼」という言葉を使い、「鬼リピ」(鬼のようにリピートする)とか、「鬼やば」(とてもヤバい)みたいに使います。ここでは鬼ってすごいってイメージですね。いづれにせよ鬼は強いというニュアンスから、このような言葉が生まれたのだと思います。

この「鬼」という文字も中国から伝わりました。鬼の原点も古代中国です。しかし、古代中国における鬼は我々が考える鬼とはちょっと違うのですね。中国語の「鬼」は本来は人が死んだ後になるものという意味で、日本語でいうと「幽霊」に近いニュアンスです。現代でも人がなくなると鬼籍って言いますよね。その鬼籍もここからきているのです。

中国語の「鬼」は特に女性の幽霊のイメージがあるようです。古代中国の家制度で、未婚の女性が亡くなるとお墓にちゃんと入れてもらえなかったのですね。つまり女は結婚してやっと一人前。SDGSとかLGBTの現代では考えられないような女性差別ですが、そのため未婚で亡くなった女性の霊はこの世に未練を残してしまうと。それで男を探しに生きている男の前に現れると考えられたのです。

それが鬼は日本に渡って、いつの間にか得体の知れないものってイメージになったのですね。鬼が初めて登場するのは『日本書紀』。飛鳥時代、朝鮮半島は高句麗、百済、新羅と別れておりましたが、日本は百済と友好国で、その百済を助けるべく日本も立ち上がったのです。時の天皇、斉明天皇自ら出陣し、京から九州に向かったのですが、しかし九州にあった朝倉宮で斉明天皇は突然病死。その時の『日本書紀』の記述。

「朝倉山の上に鬼ありて大笠を着て、喪のよそおいを臨み視る」

なんと、朝倉山の上に大きな鬼がいて、大きな笠を被っていて、鬼が天皇の葬儀を見ていたというのです。怖いですね。見ているだけで悪さをしたわけじゃないのですね。また『日本書紀」には「鬼神」と書いて「かみ」とまで読ませていたのですね。ここでは鬼は悪さをするというより、人智を超えたものというイメージですね。

そして奈良時代になると『出雲国風土記』には鬼が人を襲うって記述があるのです。島根県の阿用というところがあるのですが、ここに一つ目の鬼が現れ人間を殺したというのです。その鬼が殺された人が亡くなる際に「あよ、あよ」って言ってなくなったとか。それから、この地は阿用の郷と呼ばれるになったのです。実は、この地はタタラ製鉄が盛んで、製鉄の作業中に、作業員が片目を潰してしまったと。それでタタラの民は目が一つだと。タタラの人というと「もののけ姫」を連想します。タタラの民は人を襲うどころか、真面目に生きてきたのに、朝廷から悪魔のように言われた、まあ言ってみれば差別ですね。

おそらく朝廷は鉄が欲しかったから、タタラの民を鬼と言って悪者扱いしたのでしょう。正義の朝廷からが悪い鬼(タタラの民)をやっつけて困っている村人を救うんだ、なんて感じでタタラの地を侵略したのですね。なんだか、どっちが鬼だかわかりませんがw、かつてのイラク戦争のようなことが起こっていたのですね。あの戦争もイラクのフセイン大統領を大量破壊兵器を隠し持つ悪い独裁者をやっつけろ見たいな感じでしたが、結局は石油の利権でしたから。

また、山賊だとか海賊だとか、そういうものたちのことを鬼と呼ぶようになったのですね。だんだん、鬼が野蛮で悪い奴ってイメージが出てきたのですね。

平安時代になると都に百鬼夜行が現れたそうです。百鬼夜行とは、訳もわからぬ化け物や妖怪たちがうじゃうじゃ練り歩くことです。その姿はなんとも恐ろしげです。その百鬼夜行が現れる日は毎月決まっていて1月と2月 は子(ね)の日、3月と4月は 午(うま)の日という具合に。百鬼夜行を見たものは死んでしまうという言い伝えもあり、そのため百鬼夜行に会うと大変だということで、その百鬼夜行が現れる日は貴族は外出を控えたと言います。百鬼夜行は一条大路と二条大路あたりに出没するのです。そこは天皇が住む大内裏の周辺。その正体は、貴族から見た身分が低い者たち。貴族にとっては、それは排除すべきもの、異物だという感覚だったのです。今でいえば負け組とか底辺の人たち。要するに貴族はそいういった人たちを妖怪とみなし見下していたのですね。

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(百鬼夜行の絵 Wikipediaより)

*この記事は「ダーク・サイドミステリー」を参考にして書きました。