1 台湾の外交官・林金茎(りん きんけい)
 林金茎(りん きんけい)という台湾たいわん生まれの外交官(日本人相手の通訳)がおりまして、彼は蒋介石(しょうかいせき)に認められ、蒋介石、蒋経国(しょうけいこく)、李登輝(りとうき)と三人の総統に仕えた人物だそうです。

林は日本統治時代の台湾を知っている人物で、日本の統治を何もかも悪い時代だったと決め付ける事には賛同しかねると言ったそうです。


2 林が語る蒋介石(しょうかいせき)

 彼が始めに仕えた蒋介石の事は、こわい人のイメージがありましたが、意外と人に気をくばる一面もあったそうです。日本に留学していた経験から、日本語もかなり理解していました。だから、通訳への要求も高く、林の同僚どうりょうから「もし、まちがった通訳をしたら、その場でしかられるぞ」と忠告を受けたとか。

また蒋介石は日本人と会うときは本当にうれしそうで、欧米人おうべいじんのエライ人たちと話をする時とは表情がちがっていたとも語っています。蒋介石は、日本の保守系言論人が言うような、反日一辺倒ではなかったようです。

それどころか、蒋介石は本当は日本が好きだったようです。もちろん、日本の軍国主義者には敵対していましたが、「日本は私の故郷こきょうである」とまで言ったとか。






それから、林は「蒋介石を悪く言う人もいるが、良くも悪くも蒋介石総統そうとうの時代があったから、今日の台湾があった」とも語っています。

蒋介石は、二・二八事件に代表される恐怖政治きょうふせいじや映画の『宋家そうけの三姉妹』のイメージの通り、乱暴らんぼうでガラの悪い人物のイメージがあっただけに意外に思われました。


※ 二・二八事件 本省人(昔からの台湾人)と外省人(大陸からやってきた中国人。国民党)との大規模な争い。国民党による大虐殺事件。



https://www.youtube.com/watch?v=8VC23Zvg1ZM
(二・二八事件の動画)

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3 林が語る蒋経国(しょうけいこく)

 蒋介石の息子の蒋経国は、日本の時事問題にもくわしかったし、田中角栄が書いた『日本列島改造論』も読んだことがあったそうです。

人となりは仕事にはめっぽう厳しいコワいおに上司だったそうです。だが、その一方で、「その顔色はどうしたのですか、一刻も早く検査を受けなさい、今日は家に帰って休みなさい」と部下にやさしい言葉もかけたといわれています。

また、蒋経国は戒厳令かいげんれいを1987年にやめて、30数年にわたって続いた政党結成とメディアへの規制をやめました。党大会や国民向けの声明では蒋一族の世襲せしゅうの否定や、「私も台湾人である」と宣言したそうです。

もちろん、蒋経国が戒厳令をやめ、民主化への道をすすめたのは、台湾の民主運動家のはたらきがありました。


4 林が語る李登輝(りとうき)

 李登輝は植民地時代に、日本語の教育を受けていたから日本人と会うときもほとんど通訳は必要なかったそうです。林は李登輝の事を博識はくしきで、気さくな人だと評しています。

ただ、今の日本人(特に保守派)が李登輝を神様のように持ち上げている事に関しては、やや冷めた目で見ているようです。台湾たいわんは大変複雑な社会で、変化も激しい。だれか一人が台湾を代表するなんてありえない」と。



もちろん、李登輝は政治家でありながら文学者のにおいがする大人物であることはいうまでもありません。僕も李登輝と司馬遼太郎の対談本も読んだことがありますが、李登輝の見識や人間の器の大きさにおどろいたし、「ああ、こういう人が日本の政治家にいたらなあ」ってマジで思いました。李登輝が、単なる反中のイデオローグに治まるような小さい人物とは思えません。


また、林は台湾の民主化を推し進めた事や自分を駐日大使ちゅうにちたいし抜擢ばってきしてくれた事は心から感謝しているようです。


5 リーダーの才覚


 林金茎(りん きんけい)とこの『日中台 えざるきずな』の著者とのやりとり(インタビュー)をしているところの文章を読んでみて、この世には100%悪人もいなければ、その逆もいないということを改めて思いました。また、台湾の総統だった3人の個性が垣間かいま見れて面白かったです。




※ 参考文献および参考サイト
http://www.geocities.jp/pilgrim_reader/japan/taiwan_1.html


日・中・台 視えざる絆―中国首脳通訳のみた外交秘録
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