なんでも広島市の教材から『はだしのゲン』が削除されるそうですね。僕も『はだしのゲン』を呼んだことがありますが、本当に衝撃的な内容でした。戦争の悲惨さ、原爆の恐ろしさがありありと描かれているのです。『はだしのゲン』に描かれた絵はある意味グロテスクなのですが、原作者の中沢啓治さんは、こう語られております。

原爆の残酷な場面を見て「怖い!」「気持ちが悪い!」「二度と見たくない!」と言って泣く子が日本中に増えてくれたら本当によい事だと私は願っている。


グロテスクな面を描くことで、戦争の悲惨さを後世に伝えることができるのです。戦争を知らない世代の人間には、戦争がいかに愚かで悲惨であることはわかりにくい。だからこそ、『はだしのゲン』が活きるのだと。『はだしのゲン』は天皇批判も描かれているので、反日漫画だという人もいます。しかし、戦争それから終戦直後の人間の愚かさと弱さをあそこまでリアルに描いた漫画はないと思う。反日と簡単に片づけるのは、もったいないと思います。たとえば、作中に鮫島伝次郎という人物が出てきて、彼は戦時中は戦争マンセーで、ゲンの父を戦争に反対したという理由で、いじめたほどだったのに、戦後は人が変わったように平和主義者となり、「自分ははじめから戦争に反対していた」とウソをつき、軍部を批判するようになったと。そんなことがありありと漫画で描かれているのですよ。

実際、いまの日本の左派の源流をしらべると、戦時中は軍国主義者だった人がおおい。それどころか自分が戦争協力したことを棚にあげて、戦後になって軍部をなじったり、保守系の政治家に軍国主義者のレッテルをはって批判する者が少なくなかった。社会党の前身である社会大衆党なんて真っ先に大政翼賛会に参加しましたもん。かえって、戦時中は保守系の政治家のほうが戦争に反対していたり、慎重でしたよ。




戦時中の女性活動家(フェミニスト)も一部をのぞいて、ほとんどは軍部に協力し、戦争協力することで、軍部に恩を売って女性の権利を獲得しようとしていたのです。あの市川房江さんも結構熱心に戦争協力したのですよ。もっとも市川さんもそのことは反省していらして、自分の著作でも戦争協力したことは触れているし、市川房江さんの記念館が東京の渋谷区にあるようですが、戦争協力した過去を隠すことなく、その証拠となるものを展示しているようです。自らの戦争協力のことを人から質問されたところ、「ほほほ… 何書いたか、みんな忘れましたね」っていう人も珍しくないのに。そんな中、ごまかさずに自らの責任も明らかにした市川房江さんのような人は貴重です。

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現在でも、あるフェミ系の女性の政治家が、「戦争は男がはじめる、男が悪い」って言ったけれど、まったくのウソ。女性活動家だけでなく、一般の主婦たちも嫌々どころか嬉々として国防婦人会とかに参加して銃後を守っていたのですから。そんなことも『はだしのゲン』に描かれているのですね。
、男が兵士としてとられ、兵器工場で女性たちがかわりに働いていたのです。当時は洋の東西をとわず、男尊女卑の風潮が強く、男は仕事、女は家庭みたいな感じだったのです。それが戦争で女性たちも社会参加を余儀なくされたのです。それは日本のみならず、世界的にそう。

宮崎駿さんの『紅の豚』にも女性たちがせっせと戦闘機をつくって、主人公のポルコが「パンケーキを作るのとはわけが違う」とあきれるほど。逆に工場長は「女はいいぞ。よく働くし、粘り強いしなあ。」と言っていました。そういうシーンが出てきます。実際、女性たちはよく働いたのです。

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戦時中は女性の参政権はなかったし、女性の政治家はいなかったら、女は戦争とは関係ないという人もいるけれど、女性たちのそうした献身的な協力がなかったら、あの戦争は続かなかったと思います。それにマリア・テレジアとか、エリザベス女王だとか、戦争を積極的にやった女性の為政者は少なくありません。

日本だけでなく第二次世界大戦は海外でも女性兵士たちや女性工作員たちが活躍しました。たとえば旧ソ連の女性狙撃兵リュドミラ・パブリチェンコはなんと309人を仕留め、死のエンジェルと呼ばれたといいます。パブリチェンコは戦後20年たってからも英雄として表彰されたほど。ナチスドイツで天才飛行士と言われた女性パイロットのハンナ・ライチュは、戦後になっても、公の場でナチスのシンボル鉄十字のバッヂをつけて祖国に忠誠を誓っていたといいます。現在のウクライナでも、ウクライナの女性兵士たちが「♪我々の土地を侵略する者たち、呪われた殺人者たちを容赦なく殺す」と嬉々として歌っている映像を僕は『映像の世紀』でみて驚きましたよ。


終戦後、500人を超える女性兵士たちの証言をあつめた女流作家のスヴェトラーナ・アレクシェーヴィチさん(ノーベル文学賞受賞者)はこう述べられております。

女たちの戦争には、色、におい、光があり、気持ちが入っていた。英雄的に勝利した あるいは負けたということはほとんどない。男たちの関心をひくのは行為であり、思想や利害の対立だが、女たちは気持ちに支えられて立ち上がる。女の戦争についての記憶というのは、その気持ちの強さ、痛みの強さにおいて男よりも強度が強い。女が語る戦争は男のそれよりずっと恐ろしい。


※この記事は『映像の世紀』を参考にして書きました。