8EB79376-435E-4F47-815A-E19EAA738928

(フェルメールの「牛乳を注ぐ女」Wikipediaより)

ヨハネス・フェルメールをご存知でしょうか?バロック期を代表する、オランダの著名な画家です。彼の作品で有名な作品はいくつもあるのですが、「牛乳を注ぐ女」は知名度が高い方でしょうか。他にもたくさんの絵があります。しかし、フェルメールの絵は1970年代以降に度々盗難にあいます。

アイルランドでもフェルメールの絵画盗難事件がありました。1986年5月21日深夜2時、アイルランド・ダブリン郊外にある貴族の館でフェルメールの傑作を含む18点の絵画が盗まれたのです。被害総額は70億円。その盗難事件は大きく取り上げられました。

そのニュースを見てほくそ笑む人物がいました。マーティン・カーヒル。アイランド1のギャングのボスです。強盗、恐喝、誘拐、ありとあらゆる悪事に手を伸ばし、部下からは将軍と呼ばれておりました。その犯行の手口は非常にあざやかで、信頼できる部下を率い、慎重かつ大胆に計画通りに素早く犯罪を実行したと言います。まさにリアル怪人20面相といったところでしょうか。一方では裏切り者は絶対許さない冷酷さも併せ持っていたのです。顔写真をテレビで見たが、すげー人相悪いの。そりゃ悪いことばっかしていればね。そのカーヒルのプライベートは意外と地味で酒もギャンブルもやらない、普段は子煩悩で、子供と一緒に並んでいる写真を見た限りでは、優しそうだった。


92D6B7B3-C4BC-4502-98D9-A81E296DAA4E

(フェルメールの「手紙を書く婦人と召使い」Wikipediaより。この絵がカーヒルに盗まれた)


アイルランドは非常に複雑な事情があるところです。かつて北アイルランドの領有を巡って、イギリスとアイルランドが長らく対立していたのですね。紛争はもとより、テロ組織による爆弾テロも多かったのです。そして貧困もすごかったのです。マーティン・カーヒルが生まれ育った場所は、アイルランドの中でも非常に貧しいスラム街だったそうです。しかも治安も最悪。そんな環境で育てば、グレてしまいます。

で、盗難事件があった1986年5月21日の数日前から、カーヒル一味はフェルメールの絵を盗むべく貴族の館に下見をしたのですね。侵入経路、赤外線警報装置などを入念にチェックしたのです。そしてカーヒルたちは館に忍び込んだのです。館の中は赤外線警報装置がはり回らされていたのですが、なんとカーヒルは堂々と中を歩き、いきなりダンスまでしたというから驚きです。そして警報が鳴り出すや、すぐ逃げたと言います。カーヒルが逃げた後、警察と管理人が駆けつけたのですが、そこには誰もいないし、絵画も無事。警察や管理人も安心。しかし誰もいないはずなのに警報がピーピー鳴り止まず、うるさい。それで、警報装置の誤作動と思って、警報装置を切ってしまったのです。警察が引き上げた後、再びカーヒルたちは館に忍び込み、18点の絵画を盗むことに成功したのです。警報が鳴り止まなかったのは、部下が警報装置に細工をしたからです。

「カーヒルは手強いやつだ」と感じたアイルランド警察は、ロンドンの警察はもちろんオランダの警察やインターポール、アメリカのFBIの力まで借りました。警察は美術商になりすましたりして、カーヒルの尻尾をつかもうとするが、なかなか捕まえられず。警察は焦るばかり。しかし焦っているのはカーヒルも同じでした。フェルメールの絵画を盗んだのはいいが、その絵画を人質?(モノ質かなw?)にして、持ち主に身代金を要求しても、身代金は払ってもらえない、絵を売ろうとしても買い手なかなか現れない。しかも、有名な作品だけに下手に売ってしまうと情報がもれ、逮捕されるリスクも高くなる。一向に絵が売れないものだから、分け前もはらえず、部下たちから不満が出てきます。

今までカーヒルは、お金だとか貴金属などをターゲットにしてきましたが、美術品を盗んだことがなかった。美術業界の特殊な実情を、盗んで初めてカーヒルは知ったのですね。

将軍と呼ばれたカーヒルも次第に追い詰められていきます。部下が次々逮捕され、警察のマークもどんどん厳しくなります。さらにカーヒルのことが、マスコミにどんどん取り上げられるようになります。マスコミに取り上げられると、地下活動をしていたカーヒルも白昼夜にさらされます。普段は、毎週のように役場の窓口に並んで失業手当をもらうなど、表向きは無職のおじさんと見せかけていたのですが、そんな彼も世間にどんどん知られていきます。

とうとうカーヒルは危険なカケに出ます。なんと北アイルランド独立運動をおこなっているテロ組織のIRAと、それに敵対するアルスター義勇軍(独立反対派)に接近。両者に絵を買ってくれと頼みます。アルスター義勇軍側が色よい返事をしますが、アルスター義勇軍に逮捕者が出て、その話は無かったことに。

そんなカーヒルにも救いの手が差し伸べられます。ベルギー人の大物ギャングがフェルメールの絵を含む絵画を8点を買いたいと言ってくれたのです。しかし払ってくれたのは、前金だけで、ほとんど後金はすぐに払ってくれない。しかも、そのベルギー人のギャングは逮捕。こうしてフェルメールの「手紙を書く婦人と召使い」の絵も回収できたのです。

こうしてカーヒルもいよいよ王手をかけられてしまうのです。カーヒル自身も、持病の糖尿病の悪化で体調も悪くなり、自宅でギャング映画のビデオを見て過ごす日々。もはや、かつての将軍の面影もありません。そして、1991年8月18日、カーヒルはレンタルビデオを返却し、家を出るところをテロ組織IRAの構成員に撃たれ死亡。享年45歳。カーヒルがIRAと敵対するアルスター義勇軍と関わっていたことが災いしたのですね。また、カーヒルが貴金属工場を襲撃し7億円を強奪した後、IRAから「俺たちが先に目をつけたから、分け前よこせ」って言ってきたのですね。それをやめりゃいいのにカーヒルが拒否ったのですね。それも IRAを怒らせた原因の一つ。しかも悪いことにIRAは単なるテロ組織ではなく、地の金曜日事件という恐ろしい事件も起こしている恐ろしい組織ですから。


カーヒルがフェルメールの絵を盗んでから、カーヒルにとって良くないことばかり。NHKの「ダークサイド・ミステリー」ではフェルエールの絵は呪いの絵じゃないか?って言っていましたが、僕はバチが当たったのだと思う。元々悪いことをしていたのに、名画を盗んだのだから、これは呪いじゃなくて天罰のような気がする。僕はフェルメールの絵を生で見たことがないが、なんとも神々しいものを感じるし、人々の心を和ませるような魂も感じられる。現在、「手紙を書く婦人と召使い」の絵画は無事返還され、ダブリンにあるアイルランド国立美術館に大事に保管されています。

※この記事は「ダークサイド・ミステリー」を参考にして書きました。