この動画見せてもらったが、良くないと思う。たった2問の質問だけでASD(アスペルガー症候群)と判断するのは非常に危険だと思う。ちなみに、僕は2問のうち、一問目は正解で二問目は間違えましたw。でも二問とも会ってからと言ってASDではないというわけじゃないし、またその逆でもない。この動画が良くないって言ったのは、僕が一問間違えた腹いせもあるwでも、もう一つ、この動画に潜む危機も感じる。

前回のエントリーでもご紹介した香山リカさんの御著作『発達障害と言いたがる人たち』にも書かれておるのですが、実際発達障害の診断はプロの精神科医でも難しいのです。日本では発達障害の診断をしてくれる病院やクリニックは非常に少なく、あったとしてもそこでの診療は最低2時間もかかり、診療代も最低2万円はくだらないのです。高いですよね。発達障害の診断ってコストがかかるのでしょうね。

本格的に診断するとなると、何回も病院やクリニックに通うことになるといいます。しかも、そういうきちんと診てくれるところは予約が必要だとか。予約する人もいっぱいで、なかなか予約取れないとききます。

「発達障害」と言いたがる人たち (SB新書)
香山 リカ
SBクリエイティブ
2018-06-05



それくらい発達障害か判断するのが難しいのに、たった二問の質問だけで判断するのはいかがなものかと。この動画に限らず、わずか数問の質問で発達障害かどうかを診断する動画やサイトがあるが、それをみた人たちに偏見を与えてしまうと思う。発達障害の人は、「やっぱ、俺(私)はそうなんだ」って落ち込むだろうし、逆にそうでない人は、「やっぱり、あいつは発達障害だ」って偏見の目をもつようになる。特に入社して数か月の人は仕事に慣れていないだけだと思う。それなのに、そうした人がひとたびミスをするたびに先輩たちが「あいつは発達障害だ」と判断するのは早計だと思う。

発達障害が世に広まるにつれて、そうした人たちを守ろうとか、一緒に働ける状況を作っていこうという動きが強まればよいのですが、むしろ、偏見の目で見られたり、イジメだとかパワハラだとか職場でも不利な状況に追い込まれることのほうが多そうな気がする。まして現在はストレス社会で、かつコロナ禍。そうした不安な状況において、人々のはけ口は、弱い立場の人間や自分たちと異なるものへと向かうのが人間の悪いくせ。

人間の偏見ほど恐ろしいものはないと歴史が証明しております。藤子・F・不二雄先生の「エスパー魔美」のセリフにも出てくるのですが、人間は自分と異なるものを嫌がる傾向がある。エスパーでも魔女でも最初はすごいと珍しがっても、次第にそうした人間を避け、排除する方向へ向かう。その極端な例が魔女狩りやアメリカの中国移民排斥、ナチスのホロコースト。

冒頭で上げたこの動画の悪い面ばかり言いましたが、よい面もあります。動画の最後の方に出てくる「怖いよ、普通の奴らが」というセリフ。示唆にとんでます。魔女狩りをやったのも普通の人たち、中国人移民排斥を訴えたのも普通の人たち、ナチスドイツを支持し、その台頭を支持したのも普通の人たち。むしろ発達障害の人がナチスドイツを批判したという話も聞いたことがあります。また、軍部の台頭を許し、戦時中は戦争を反対したものをイジメたのも普通の人たち。英明な君主に従うならまだしも、我々が大人しいことを良いことに好き勝手ばかりするリーダー、あるいは声がデカいだけの、ならず者に合わせることが良いことなのか。

そうそうナチスと言えば優性思想がはびこり、障害を持った人間は迫害、最悪殺されたのです。そんな時代にアスペルガーという医師が活躍。ナチス党員ではないが、ナチスに協力。アスペルガーは自閉症の定義を決め、自閉症に該当する子供を収容所に送ったとも庇ったとも。アスペルガーは自閉症の子供には特別な能力があるとも提唱しましたが、ナチスドイツでは、そんな考え方は受け入れられません。アスペルガー症候群の語源も、この医者の名前から取ったのです。

アスペルガー医師とナチス 発達障害の一つの起源
エディス・シェファー
光文社
2019-06-19