シャイニング (字幕版)
シェリー・デュバール
2014-02-24



シャイニング(上) (文春文庫)
スティーヴン・キング
文藝春秋
2015-04-17



1 シャイニング
「シャイニング」って映画ご存じでしょうか?キューブリック監督の作品で1980年に発表。ジャックニコルソンが出演で、コロラド州の山中にあるオーバールック・ホテルというホテルが舞台。冬の間だけ、アル中気味の小説家とその一家が管理人として、そこに寝泊まりするのですが、小説家がホテルに居ついてた悪霊にとりつかれ、自分の家族を殺そうとするというプロットです。最初は家族思いの優しいパパが次第に豹変し、悪霊にそそのかされ殺人鬼に変わっていく様子が怖いんですよ。「RED RAM」というフレーズが出てきますが、これは英語の「MARDER」(殺人者)をひっくり返したもので、「金田一少年の事件簿」にも出てきます。



その小説家をジャックニコルソンが演じられているのですが、一言でいえばすごいの一言。鬼気迫る演技で、身の毛がよだつほどの殺人犯を見事に演じられておりました。ジャックニコルソンの演技力は非常に定評があって、僕は彼が出演している映画はたいていみておりますが、「シャイニング」におけるジャックの演技は本当に印象に残っております。ジャック演じる小説家の「おこんばんわ」と言って家族を襲うシーンが特に印象的でした。

「おこんばんわ」の元ネタは、あくまで日本のコメディアンのトニー谷のセリフで、映画では「Here's Jonney」って言っておりますね。この「Here's Jonney」にも元ネタがあって、アメリカの長寿番組「Tonight Show」の司会ジョニー・カーソンが登場するときに使われていたお決まりフレーズだそうです。同じコメディアンの決め台詞ということで、映画の翻訳者の方は「おこんばんわ」というセリフをチョイスしたのかなって。

この映画の原作者は、スティーブン・キング。彼はホラーものやサスペンスものを多数書いていて、彼の作品は、「キャリー」だとか「ミザリー」だとか結構映画化されております。かといってサスペンスやホラーものばかりではなく「グリーンマイル」のようなヒューマンドラマや、「スタンドバイミー」のような青春ものも書いてます。「スタンドバイミー」を初めてみたのは僕が中学の頃ですが、その頃は原作者が誰だか知りませんでした。僕が大人になって、スティーブン・キングが原作だと知ってずいぶん驚いたものです。もっとも、「スタンドバイミー」に出てくる少年たちは、死体を探しに冒険をするというプロットですから、ある意味、キングらしいなって。

ちなみに、キングはキューブリック版の「シャイニング」が大嫌いです。「私の小説は熱いが、映画は冷たい。」って批判してました。原作では小説家の息子ダニーという少年が主人公で、「シャイニング」と言われる特殊な超能力を使うという設定。父である小説家は、悪霊にとりつかれながらも、最後まで父としての良心が残っているというもの。映画版ではジャック演じる小説家が主人公で、完全に悪霊にとりつかれてしまっている。それにキューブリック版に出てくるダニー少年は、予知能力があるものの、原作ほど超能力を使わない。あまりに映画と原作と違うというのでキングは怒ってテレビドラマを作ったほど。キューブリックの映画、普通に面白いというか、見ごたえあると思うが。

ちなみに「シャイニング」には続編があります。「ドクター・スリープ」という作品で、大人になったダニーが主人公で、ダニーもまた父の短気な性格とアル中気質は受け継いでいて、なぜか、惨劇の起こったあのホテルに戻るというストーリー。「ドクター・スリープ」も映画化されましたが、この映画は原作とキューブリック版「シャイニング」をうまく融合したといわれ、キングもこの映画を大絶賛したとのこと。



(RED RAMが登場する話。この作品でも「シャイニング」が言及されている)

シャイニング 特別版 [DVD]
スティーブン・ウェバー
ワーナー・ホーム・ビデオ
2013-06-26


(ドラマ版のシャイニング)

ドクター・スリープ(吹替版)
レベッカ・ファーガソン
2020-09-07



2 キングが書いたきっかけ

 キングがこの作品を書いたきっかけは、キングが小説を書いている最中に、彼の子供が書き上げた原稿にいたずらをしたようです。それでキングは一瞬だが殺意を覚えたといいます。その時の体験がもとになり「シャイニング」が生まれたと。

僕は小説なんて書いたことがないから知らないが、書いている最中はイライラするようですよ。アイディアもなかなか浮かばないし、かといって自分が書きたいものを自由にかけるかといえば、そうでもなく、せっかく小説を書き上げても編集者の意向に沿わなければボツ、それで売れなければ意味がない。「シャイニング」と同じような話は、日本にもあります。井上ひさしの元の奥さんが暴露本を書いたのですが、彼の奥さん曰く「肋骨と左の鎖骨にひびが入り、鼓膜は破れ、全身打撲。顔はぶよぶよのゴムまりのよう。耳と鼻から血が吹き出て…」という具合にすさまじいDVにあったといいます。ひどい話だなって。それでも直木賞を受賞するまでは、普通にいい人だったのに、受賞して有名になってから彼は変わったといいます。売れて、いい気になったのかな。

僕は井上ひさしといえば温厚なイメージで、彼の小説もヒューマニズムにあふれていただけに非常に驚きましたね。何か芸術的なものを生み出すというのは実は大変なことで、肉体的にも精神的にもまいってしまうんだなって。その生みの苦しみを人によっては誰かにぶつけてしまうと。

一方、僕が尊敬してやまない藤子・F・不二雄は、その苦しみを弟子どころか家族にぶつけなかった、だから自分の身に来てしまい、62歳という短い生涯だったのかなって。





3  インディアンについて


映画では、ホテルのあった場所はもともとはインディアン(※1)の墓地があったところで、建築中もインディアンが襲来したとなっております。そうしたインディアンの呪いがこのホテルに乗り移ったのかなって。それと、悪霊にとりつかれた小説家がバーボンを飲む際、「酒は白人の呪いだ、インディアンはしらん」ってセリフもでてきます。僕も知らなかったのですが、バーボンってトウモロコシ🌽が原料なんですってね。白人がインディアンからトウモロコシ畑を奪い、さらにバーボンを白人は発明したと。そんな血塗られた歴史があったのですね。さらに小説家が家族を殺そうと手に持った武器は斧。🪓斧はインディアンの象徴です。ちなみに、この設定は映画のみで、原作にはない設定です。でも、アメリカにおいて白人はインディアンにひどいことをしましたからね。映画を通してキューブリックはそのことを訴えたかったのかもしれない。


たとえば、1890年におきたウェンデッド・ニーの虐殺事件。それはベンジャミン・ハリソン大統領(※2)の在任中に起こったのです。ハリソン大統領の祖父はウィリアム・H・ハリソンといいましてインディアンと戦った人でアメリカの9代大統領でありました。つまり、ベンジャミン・ハリソンは世襲大統領の走りみたいな人だったのですねえ。

ハリソン大統領の時に、ノースダコタ、サウスダコタ、モンタナ、ワシントンという4つの新たな州がうまれました。いづれも白人たちにとって未開の土地で、これらの土地に次々と白人の入植者がやってきたのです。当然、先住民であるインディアンは土地を奪われ、住み家を破壊されたのです。とくにスー族は多くの居留地に分けられ約4万5000平方キロの土地を失ったのです。

絶望したインディアンたちは、ゴースト・ダンスをはじめました。ダンスを踊れば先祖の霊がよみがえりバッファローの群れももどり白人が消滅すると信じたのです。それを白人たちは不気味に思い、インディアンの反乱の兆しだと考えたのです。軍部は政府に「インディアンが俺たちに反抗しているぜ」って文書を送ったのです。

ハリソン大統領は報告を受け激怒。約5000人の軍隊を現地に派遣。その数、常備軍の4分の1という大規模な数。そして、連隊のリーダーはインディアンたちに踊りを今すぐやめろと要求。そして指揮官は銃殺を命令。悲劇は起こりました。銃声が止まり、大砲の弾がつきるまでに数百人のインディアン老若男女問わず殺されたのですね・・・ハリソン大統領はインディアンの命よりも入植者のほうが大事だったのです。それどころか、ハリソンは虐殺をした白人20人に名誉勲章を与えたというから、あきれた話です。

このインディアン虐殺はあくまでもアメリカにおけるインディアン差別問題の一つにすぎません。長いことインディアンはアメリカ人とみなされず、アメリカの進歩を妨げる存在だとずっと思われてきたのです。実際、西部劇とか映画でもインディアンは悪役として描かれておりますし。






※1 インディアンという言葉は現在では差別用語とされ、ネイティブ・アメリカンと呼びましょうって、現在アメリカで提唱されているが、当のインディアンたちは白人による差別の歴史に蓋をしているだけと反発。
※21889年から1893年まで在任