* この記事はNHKの「ダークサイドミステリー」を参考にしてかきました

オオカミ男をご存知でしょうか?普段は人間だが、夜に月を見るとオオカミに変身し、人間を襲い、ズタズタに人間を殺してしまうと。怖いですね。オオカミ男はアニメやゲームにもよく出てきますね。そんな恐ろしい化け物が本当にいたのでしょうか?

オオカミ男は実在するかどうかって話ですが、結論を先に申し上げれば、オオカミ男はいなかったと思います。実際に人間がオオカミに変身する様子を見たという記録はないのですね。ただ、オオカミ男のレッテルをられて、無実の人たちが犠牲ギセイになったのですね・・・以前に魔女狩りのことを書きましたが、魔女狩りの話と通ずる問題であります。

さて、オオカミ男の呼び名は国によって違います。イギリスではウェアウルフ、ドイツではリカントリープ、フランスではルーガルーという具合。それくらいヨーロッパ各地で、その存在がウワサされたのですね。昔はネットも何もなかったからなおさら、そういうものがいると信じられていたのでしょう。

そんな中世ヨーロッパでオオカミ男が人間を襲ったという事件が起こったのですね。16世紀、ドイツのベットブルクという村で事件が発覚したのです。それまで、この村で25年もの間、子供が行方不明になったり、森に入った人がバラバラ死体になって見つかったりと奇妙キミョウなことが続いていたのですね。犯人はダレだろうと不思議がり、そしてこの村にオオカミ男がいるんじゃないかってウワサされるようになったのです。そして1589年に一人の男が容疑ヨウギにかけられました。

容疑をかけられたのがペーター・シュトゥンプという農夫でした。彼は、厳しい拷問ゴウモンをかけられたのですね。ペーターが課された刑というのは車裂クルマザききの刑というもので極めて残酷ザンコクで、重罪人に課されるものでした。ペーターは叫びます。「俺はオオカミ男だ」って。そして、自分は悪魔からベルトをもらい、そのベルトをつけるとオオカミに変身でできると。オオカミに変身し、25年にもわたって、14人の子供と2人の妊婦を殺して食べ、家畜カチクまでもむさぼり食ったと。さらには自分の娘とも寝たと自白したのですね。

意外かもしれませんが、オオカミは滅多なことでは人間を襲わないのですね。あるとしたら狂犬病にかかったとか、人間がオオカミの縄張りに入ったとかありますが、基本的には人間を襲いません。しかし、オオカミ男だったら人間を襲う可能性が高いというので、ペーターはオオカミ男だと疑われたのですね。

もちろん、当時は科学的な調査などあるはずがなく、ペーターはオオカミ男と疑われたまま亡くなったのですね。結局、子供たちを殺したのは誰なのか分からずじまいだったのですね。もちろん、ペーターが本当に犯人だった可能性もありますが、冤罪エンザイっぽいなあ。

さて、オオカミ男についてですが、オオカミ男は16世紀になって突然ウワサされたのではありません。オオカミ男の伝説は古代からありましたし、12世紀の後半には『ビスクラヴレット』(※1)という小説にもオオカミ男が登場するくらいですから、広くその存在がうわさされたのですね。

しかし、『ビスクラヴレット』が出た頃のヨーロッパは、森の開拓が進んだ時期でした。昔は自然にたいする畏敬イケイの念がったのですが、この頃のヨーロッパの人たちは森を畏敬イケイの対象としておらず、征服するものだと考えていたのです。森林を切り拓けば開くほど良くて、森林を壊せば環境破壊になるなんて考えはなかったのですね。今はヨーロッパは環境問題に熱心ですが、この時代は違ったのですね。当然、森林を壊せば、狼の住処スミカを奪ってしまうことになるのです。住処を奪われたオオカミにとって迷惑な話なんです。森林破壊だけでなく、オオカミの獲物のシカやウサギ、イノシシなども人間が狩るので、オオカミは食べ物を求め、家畜を襲ったりするのです。だから人間にオオカミは嫌われてしまったのですね。元はいえば森林破壊をした人間の方が悪いのですが。とはいえ人間も生き抜かなくてはならない。

なんだか、宮崎駿監督の「もののけ姫」と通じるテーマだなって。人間も生きるために森を切り開かなくてはならない、一方のオオカミほか動物たちにとっては人間は自分たちの住処を脅かす悪いヤツらなんでしょうね。

人間ははじめはオオカミをたくましさと理性の象徴として畏敬の念があったのですが、次第に自然を崇拝から支配へという意識に変わりました。そうしてオオカミも人間にとって支配すべきもの、悪いものとみなされるようになるのです。「赤ずきんちゃん」でもオオカミは完全に悪者ですよね。またオオカミ男は、キリスト教と敵対する悪魔の化身だとみなされていました。キリスト教が、自然崇拝だとか土着の信仰を駆逐するためオオカミ男伝説を利用してきたのですね。

そして14世紀に入るとヨーロッパは小氷期になり、気温が寒くなるのです。寒冷による飢饉キキン、ペストの大流行に、戦争。そのため多くの人たちが亡くなったのですね。しかも悪いことにこの頃のヨーロッパは魔女狩りが盛んでした。魔女狩りにあわせて、オオカミ男狩りも行われるようになったのです。それは18世紀ごろまで続いたといいます。

殺人事件や誘拐事件が起こると、「これは悪魔の使いのオオカミ男の仕業に違いない」って人々が思うようになったのですね。当時のヨーロッパは、今のコロナショック以上に人々は不安に駆られていたのですね。そうした不安のはけ口を弱い人間にぶつけたのですね。それは魔女狩りと一緒。魔女狩りもどちらかというと貧しい女性がターゲットになったそうですから。そうしてオオカミ男と噂された人間は裁判にかけられたり、拷問ゴウモンを受けたり、最悪、処刑されたのです。いつの時代も、人間は自分たちが不安になると、誰かをスケープゴートにして攻撃をしたがるのだなって。例えば、緊急事態宣言中に営業していた飲食店やカラオケボックスが自粛警察から嫌がらせを受けたなんて話もそうだし、学校のいじめもそうだなって。

こうしたオオカミ男狩りは、世界を合理的に見ようとする啓蒙主義ケイモウシュギが広まるようになってから、下火になりました。啓蒙主義が広まるとオオカミ男狩りだけでなく、魔女狩りも下火になりました。

* おまけ
車裂きの刑の話が出てきたので、具体的にどんな刑だったのかをご紹介します。この刑罰は非常に残酷で、中世で最も重い刑です。一言でいえば、受刑者の体を打ちクダいてしまうのです。




※1マリー・ド・フランスが書いたもの。フランスで美しい貴公子がいたが、実は彼はオオカミ男だった。夜になると服を脱いで森に向かう。そこでオオカミに変身する。そのことを知りショックを受けた彼の妻は、愛人と共謀し、貴公子が着ていた服を隠してしまう。人間に戻れなくなった貴公子は、オオカミの姿のまま、妻に復讐をするべく、そのチャンスをうかがうというのが、大体のあらすじ。