1 剣(つるぎ)のおそろしい仕掛しか
 「剣」は一言で言ってしまえば、実用化されなくてよかった軍用機だと思います。「剣」の機体の大部分は木製です。(主翼しゅよくはジェラルミンを使いましたが)

まあ、「剣」の試作がされたのが戦争末期で物資が少なかったころですから、木を使うのもやむを得ないといえばやむを得ないのかもしれません。しかし「剣」のおそるべき最大の工夫は、離陸りりくすると車輪が外れてしまうことです。

だから、「剣」でいったん飛び立てば、どこにも着陸することはできません。飛び立った瞬間しゅんかんが「死」そのものだったのです・・・

しかも「剣」の機体の下部が深くえぐられ、そこには大きなバクダンを装着そうちゃくするようになっていたのです。まさに特攻とっこうにふさわしい軍用機です・・・


2 「剣」の試作機を見た学徒がいた

「剣」の試作機をみた、ある理系の動員学徒は、自分の友人がこの飛行機で出撃しゅつげきすることを考え、なみだを流したといわれています・・・

これは100機ほど製造されたそうですが、テストパイロットの結果、陸軍は実戦に使用することを認めませんでした。

それは飛行中、あまりに安定性が悪く、訓練不足くんれんぶそくのパイロットにはとても操縦そうじゅうできないと思ったからです

3 剣は特攻用ではない!!
 一方で、「剣」の設計せっけいに関わった青木邦弘さんは「剣」は「特攻用として造った飛行機ではない」とだんじています。

家庭用の金物までかき集めるような状況じょうきょうで、つくれる飛行機といったら必要最低限の装備そうびにするしかありません。装備が軽い分、早いスピードを出す事ができます。もちろん、この飛行機で敵の戦闘機せんとうきや空母と戦うのはムリでも、軍事物資を運ぶ護送船くらいは攻撃こうげきできるはずです。

さらに青木さんは以下のように語られました。

「激しい空襲くうしゅう下で国家存亡ぞんぼう時機じきが近づいたと感じた一群いちぐん(※1)の若い技術者達が、自分達の持っている唯一ゆいいつの能力(飛行機を造る能力)をふりしぼって必死になって最後の飛行機を設計した。そこには、特攻機などと言う考えは入りこむ余地よちはまったくなかった」


『中島戦闘機設計者の回想―戦闘機から「剣」へ 航空技術の闘い』より引用



この剣を特攻機として使うかどうかは、それはあくまで軍の判断によるもの、少なくとも現場の技術者達ははじめから特攻用の戦闘機なんて造るつもりはないとの事でしょう。

いづれにせよ、「剣」は実戦で一度も使われることなく、終戦をむかえました。

※1 一つの群れ




※ 参考文献


中島戦闘機設計者の回想―戦闘機から「剣」へ 航空技術の闘い (光人社NF文庫)
中島戦闘機設計者の回想―戦闘機から「剣」へ 航空技術の闘い (光人社NF文庫)


武器・兵器でわかる太平洋戦争―科学技術の粋を集めた日米の兵器開発戦争 (学校で教えない教科書)
武器・兵器でわかる太平洋戦争―科学技術の粋を集めた日米の兵器開発戦争 (学校で教えない教科書)


歴史のなかの中島飛行機
桂木 洋二
グランプリ出版
2002-04



中島戦闘機設計者の回想―戦闘機から「剣」へ 航空技術の闘い (光人社NF文庫)
中島戦闘機設計者の回想―戦闘機から「剣」へ 航空技術の闘い (光人社NF文庫)